高3夏のふたりの話。2025年8月Webオンリードロライの連作掌編。1本800字程度縛りの習作です。
さまざまな独自解釈が含まれます。
2025/09/02 お題⑤〜Extraを公開しました。よろしくお願いいたします。
①初めて・変装・かき氷
初めて二人だけで出かけたのは試験休みの初日のことだった。最後の夏の思い出作りの一環として、くじ引きで決まった『変装して街中のカフェでかき氷を食べてくる』という他愛のないミッション。誰かに名前かクラス名を呼ばれたら失格で、罰ゲームが待っている。
「物間くんがいる」
見知った人影に声をひそめ、雄英の敷地内を遠回りして門を抜ける。ここからはいつもの坂を降りていく。
「暑いだろ」
少し伸びすぎていた髪を複雑な形に編まれて瀬呂くんのカラフルなポンチョを羽織らされた僕の左側から季節外れの冷たい風が吹いてくる。方々から寄せ集められた着慣れない衣服は夏らしくはあるが、それなりのボリュームだ。
「バレてしまうよ」
「なら罰ゲームも一緒だな」
何させられるんだろう、と上鳴くんのサングラスと帽子で顔と髪を隠した轟くんがわくわくと呟く。
「こら、最初から諦めたらだめだぞ」
「わりぃ。潜入捜査みてぇなもんだしな」
そう言う声はやっぱり弾んでいた。
到着したカフェにはすでに列ができていて、僕たちは大人しくそこに並ぶ。雄英の制服もちらほら見える。
「どれにする?」
なるべく会話は控えるべきだが、肩を寄せ合ってメニューを覗き込んでいれば不自然ではないし、顔も見られない。ひとつずつ決めたところで順番が回ってきた。
だが、二名でお待ちのトドロキ様、と呼ばれ、列の後ろの方がどよめいた。あれ、一緒にいるの飯田先輩だよね、というさざめきに、お、と呟いた轟くんがグループチャットの画面を掲げた。
飯田、轟アウト、と見届け人の耳郎くんが投稿していた。
「俺たちには潜入捜査はまだ早かったようだな」
「わ、わりぃ、気が緩んじまってた」
思わず放ってしまった言葉に、轟くんはしょんぼりと肩を落とした。その姿に笑いを堪えながら、「ごめん」と謝り背を軽く押す。
ひとまずは多種多様な果物が盛られた豪華なかき氷をゆっくりと食べてから戻ろう。みんなが罰ゲームを考える時間も必要なのだし。
重たいポンチョを脱いで、席に着く。
夏はまだ始まったばかりだった。