2025年夏 轟飯ドロライ連作掌編

②水着・花束・緑谷

 みんなで海に行く日は午後から合流するよ、と緑谷が水着を選びながら説明する。オールマイトのコラボ商品は、引退後も次々と新作が出ているらしい。
「面接の練習があるんだ」
 緑谷曰く、雄英で教員資格を取っても採用試験はあるし、知り合いの教員たち相手でも厳しい面接があり、それは二学期が始まってすぐに実施されるということだ。
「実は、来年以降に大学の通信課程も考えてるんだ。調べたら社会人入学も結構あるみたい」
「大変そうだな」
「現場に出るプロヒーローほどじゃないよ」
 ちくん、と痛みを覚えた胸の訴えを無視して、俺は色違いの派手な水着を二つ手に取る。罰ゲームもあるから、それに合わせたものが必要だ。インターンでいない飯田の分も大役を任されているので、いったんこっちに集中する。
「緑谷、リンクコーデ? とペアルックって何が違うんだ?」
「僕にわかると思う?」
 返事に窮していると、「それでいいんじゃないかな」とフォローが入った。

 飯田の部屋に買ってきた水着を持っていくと、小さな花束が花器に活けてあった。ベッドに腰を下ろし、尋ねる。
「それ、どうしたんだ?」
「一昨日、怪我をしていた子供を助けたら、今日わざわざ事務所まで来てくれて、その時に」
「そっか、よかったな」
 かねてから、卒業後もしばらくは保須に残りたいと飯田は言っていた。俺は行き先をまだ決めていないが、きっと離れてしまうことになるだろう。ちくん、とまた胸が痛む。
「浮かない顔だな。何かあったのかい?」
「……今年で卒業、だから」
 俯いたままそう言うと、飯田が立ち上がり、抱きしめられた。ささくれ立った気持ちがなだらかに均されていく。ふ、と息をつき、いつもありがとな、と礼を言うと、耳のすぐそばで小さく窘められる。
「しかし、気が早いな。夏もまだ終わっていないのに」
 だけど、来年の今頃は、もうこうやって抱きしめてもらうこともなくなる。友達にいつまでも甘えるわけにはいかないのは、わかっているけれど。
「うん」
 今はそう返事するだけで精一杯だった。