⑤おうちデート・アイスクリーム・なだめる
轟くんとの交際に『仮』をつけたことと、緑谷くん以外にはしばらく内緒にしておこうと決めたことに、まだ一週間なのに早くも首を絞められている。
仮、としたのは、どちらも恋をするのは初めてで、親友と呼べる相手とそうなったことに戸惑っているからだ。緑谷くんも交えてあの翌日に話をしたら『話し合いに混ぜてもらえて嬉しいんだけど、なぜか僕が二人に振られた気持ちになるんだよね』と苦笑いをされ、平に謝り許してもらった。それもあって、僕たちにはまだ色々と早い、と。
「あんまり二人になれねぇな」
「前と変わらないだけじゃないか?」
「でも、デートとか、してみてぇのに」
消灯まで十五分。ふわふわと眠たげに拗ねる声に胸がいっぱいになる。肩を寄せ合ったまま髪を撫でてなだめていると、帰りが遅くなった分までしっかりと満たされていく。
二人きりになれないのは、常に周りに友人たちがいるからだ。たとえば待ち合わせて出かける時間が取れないからとちょっとそこまで出ようとすると、すぐに同行者が何人も増える。本当に、ありがたいことではあるのだが。
「世の中にはおうちデートというものがあるそうだよ」
日曜の朝、共用部のテレビで流れていたバラエティ番組で耳にした言葉をふと思い出す。当時は矛盾の塊だと思ったが、今では妙案のように感じられた。
「なにするんだ、おうちデートって」
「映画を観たり、お茶を淹れてそれぞれ好きな本を読んだり、くっついておしゃべりをしたり、だろうか」
記憶の底から引っ張り出してきた説明に、お、と轟くんが小さく反応する。
「最後のやつは、いつもやってる」
「ああ、今まさにしているな」
その言葉に自然と抱擁になだれ込んだところで、あることを思いつき、声を落として提案した。
「今日、兄さんが『友達と食べな』ってアイスクリームを持たせてくれてね。暑い中、ドライアイスをありったけ詰めて持って帰ってきたんだ。これから一緒に食べないか」
「もう消灯だろ? 委員長なのに、いいのか」
「夜中にキッチンを使ってはいけないという規則はないよ」
もっと二人きりになるにはどうしたらいいか。知恵を絞った末の悪い閃きと轟くんのそわついた声に口角があがる。
「イチゴのやつあるか」
「あるとも。じゃあ、四十分後に降りてきてくれ」
そう伝えると、デートだ、と轟くんが耳元で笑った。