2025年夏 轟飯ドロライ連作掌編

④花火・賭け・顔をさわる

 水着の色違いだけじゃリンクコーデにならなくない? とビーチに着くなり審議が始まり、話が二転三転した末に全員がげらげらと笑い崩れ、同じメーカーのラッシュガードを着ていたことでなんとか許された。
 朝もまだ早い時間だけど、とんでもない盛り上がりだ。これから一時間ほど清掃活動に勤しんでから遊び倒し、最後はホームセンターで買ってきた大量の手持ち花火で締める。滑り出しは順調だ。
 罰ゲームになったのは俺と飯田、耳郎と八百万、そして峰田と上鳴だった。八百万たちはにらめっこで爆豪と切島に負けて、今日一日を猫耳をつけて過ごすことになった。一方の上鳴たちは、制限時間内に買い物をしてくるミッションなのに途中で女の子に声をかけてしまったのが敗因らしく、揃って『ナンパは迷惑行為です』とでかでかと書かれたタスキをかけられていた。
 大いに反省したまえ、と腕を組む飯田は出がけにまた髪をいじられ、頭のてっぺんをざっくりと編み込まれている。変装をした日以来、女子たちが味を占めたらしい。いいな、とうっかり口走ったせいで俺も捕まってサイドを編まれてしまったが、髪型が羨ましかったわけじゃない。
 最近、抱きしめてもらうだけじゃなくて、どこかに触れていないと落ち着かない。委員長、髪質いいよね、と感心する会話にそわそわする。俺も知りたいと、思ってしまう。髪だけでなく、たとえば頬の感触も。
 触りたいと言えば飯田は許してくれるだろう。理由もきっと追及されることはない。……追及されたい。聞かれたら、俺はなんと答えるのだろう。無心でゴミを拾っているとつい考えてしまう。だから、反応が遅れた。
 肩を何度か叩かれていたのに気づき振り向けば、骨ばった手の甲が頬に触れる。あ、と声が漏れると同時に対面した飯田の顔がふわりと色づいた。
「あまり離れると迷子になってしまうよ」
 わずかに上滑りする、快活な声。泳ぐ視線。頬に寄せられたままの手。その理由を考え出すと心臓が騒がしくなる。
「今日、どこかで二人になれねぇか。花火する時にでも」
「……わかった」
 返事もそこそこに、掴みかけている感情の輪郭を確かめたくてそう言うと、飯田は覚悟を決めたように頷いた。
 賭けてもいい。飯田も似たような何かを掴んでいる。
 誰を相手に何を賭けるのかもわからないまま、俺は砂に残る飯田の足跡だけを踏みながら、後をついていった。
 勝てますように、とただ祈りながら。